大判例

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千葉地方裁判所 昭和51年(行ウ)14号 判決

原告

信太忠二

右訴訟代理人

山本博

鶴見祐策

加藤雅友

外九名

被告

柏市固定資産評価審査委員会

右代表者委員長

金子肇

右訴訟代理人

堀家嘉郎

右訴訟復代理人

松崎勝

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二そこで本件決定の適否について検討する。

1  本件決定は、本件土地建物に対して柏市長が行なつた本件評価に関して、原告がその登録について地方税法四三二条に基づく審査の申出をしたのに対して、被告が右申出を棄却したものである。したがつて、本件決定の適否の前提として柏市長の本件評価が適法といえるか、が問題であるから、まず右の点について判断する。

2  本件評価の適否について

(一)  固定資産評価の基準ならびに方法

(1) 地方税法三四九条一項は、「基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋……に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格……で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳……又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳……に登録されたものとする。」と規定し、更に同法三四一条五号は「価格」とは、「適正な時価をいう」と定めている。

右規定にいう「適正な時価」の決定について、同法四〇三条一項は、「市町村長は、第三百八十九条又は第七百四十三条の規定によつて道府県知事又は自治大臣が固定資産を評価する場合を除く外、第三百八十八条第一項の固定資産評価基準によつて、固定資産の評価を決定しなければならない。」と定め、同法三八八条一項前段は、「自治大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない。」としている。そして〈証拠〉によれば、右地方税法三八八条一項の規定をうけて定められた自治省告示(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号)である固定資産評価基準は、固定資産税の課税標準となる土地(宅地)の評価は、売買実例価額から求める正常売買価格に基づいて適正な時価を評定するという方法によるとしている。

そして、昭和三八年一二月二五日自治固発第三〇号各都道府県知事宛自治事務次官通達「固定資産評価基準の取扱いについて」(以下「本件通達」ということがある。)によれば、「固定資産評価基準は、地方税法第三八八条一項の規定に基づき、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続について定めているものであつて、同法第三八九条第一項、第四〇三条第一項及び第七四五条の規定により、固定資産税における固定資産の評価及び価格の決定にあたつては、この固定資産評価基準によらなければならないものとされているものであり」、「市町村は、固定資産税の課税にあたつては、固定資産評価基準の定めるところによつて固定資産の適正な評価を確保するよう努めなければならないもの」とされている(前出甲第二号証一二二頁参照)。

(2) そこで本件訴訟に必要な限度で、右固定資産評価基準による評価方法を示せば次のとおりである。

まず土地の評価は現況に基づく地目別に行なわれる(基準第1章第1節一)。

次に、宅地の評価方法は、各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点一点当りの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求めるものである(基準第1章第3節一)が、その評点を付するについては、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」により、そうでない地域の宅地については「その他の宅地評価法」によつて付設することとされている(基準第1章第3節二)。

市街地宅地評価法による宅地の評点数の付設は左の順序によつている。

① 市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、特殊地区等に区分し、当該各地区について、その状況が相当に相違する地区ごとに、その主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定するものとする。

② 標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について路線価を付設し、これに比準して主要な街路以外の街路(以下「その他の街路」という。)の路線価を付設するものとする。

③ 路線価を基礎とし、「画地計算法」(基準別表第3)を適用して、各筆の宅地の評点数を付設するものとする(右別表第3は甲第二号証の一九頁以下にある。)(以上、基準第1章第3節二(一)1)。

右の標準宅地の選定については、右①の宅地の区分をしたうえで、更に住宅地区に限つていえば、高級住宅地区、普通住宅地区、併用住宅地区に区分し、その各地区を、街路の状況、公共施設等の接点の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等からみて相当に相違する地域ごとに区分し、当該地域の主要な街路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められるものを選定するものとするとされている(基準第1章第3節二2)。

路線価の付設については、主要な街路およびその他の街路に区分し、主要な街路について付設する路線価は、当該主要な街路に沿接する標準宅地の単位地積当りの適正な時価に基づいて付設し、その他の街路について付設する路線価は、近傍の主要な街路の路線価を基礎とし、主要な街路に沿接する標準宅地とその他の街路に沿接する宅地との間における街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等の相違を総合的に考慮して付設するものとされている。そして標準宅地の適正な時価については左のアないしウによつて、宅地の売買実例価額から評定するものとされている。

ア 売買が行なわれた宅地(以下「売買宅地」という。)の売買実例価額について、その内容を検討し、正常と認められない条件がある場合においては、これを修正して、売買宅地の正常売買価格を求める。

イ 当該売買宅地と標準宅地の位置、利用上の便等の相違を考慮し、アによつて求められた当該売買宅地の正常売買価格から標準宅地の適正な時価を評定する。

ウ イによつて標準宅地の適正な時価を評定する場合においては、基準宅地(基準第1章第3節三2(1)によつて標準宅地のうちから選定した基準宅地をいう。)との評価の均衡及び標準宅地相互間の評価の均衡を総合的に考慮する(以上基準第1章第3節二3)。

そして各筆の宅地の評点数は、路線価を基礎とし、「画地計算法」を適用して付設される(右同)。

その他の宅地評価法による宅地の評点数の付設は左の順序によつている。

① 状況類似地区を区分するものとする。

② 状況類似地区ごとに標準宅地を選定するものとする。

③ 標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価に基づいて評点数を付設するものとする。

④ 標準宅地の評点数に比準して、状況類似地区内の各筆の宅地の評点数を付設するものとする(以上、基準第1章第3節二(二)1)。

右状況類似地区の区分は、宅地の沿接する道路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他宅地の利用上の便等を総合的に考慮し、おおむねその状況が類似していると認められる宅地の所在する地区ごとに区分するものとする(基準第1章第3節二(二)2)。

右の標準宅地の選定は、状況類似地区ごとに、道路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等からみて、標準的なものと認められるものを選定するものとする(基準第1章第3節二(二)3)。

そして状況類似地区の標準宅地の評点数は、市街地宅地評価法掲記のアないしウと同様の事由によつて、宅地の売買実例価額から評定する当該標準宅地の適正な時価に基づいて付設するものとされている(基準第1章第3節二(二)4)。

そして、各筆の宅地の評点数は、標準宅地の単位地積当り評点数に「宅地の比準表」(基準別表第4)により求めた各筆の宅地の比準割合を乗じ、これに各筆の地積を乗じて付設するものとする。この場合において、市町村長は、宅地の状況に応じ、必要があるときは、「宅地の比準表」について、所要の補正をして、これを適用するものとする(基準第1章第3節二(二)5)。

次に家屋の評価は、当該家屋の再建築費評点数を基礎とし、これに家屋の損耗の状況による減点を行なつて求めることとされている(基準第2章第1節)。

なお、昭和五一年度から同五三年度分の評価については、経過措置によつて同五〇年度の価額に据え置かれている(基準第2章第4節二)。

(二)(1)  ところで、原告は、固定資産評価基準による評価はその内容が違憲・違法である旨主張するので、この点について判断する。

まず、固定資産証価基準は、宅地の価格について売買実例(土地の取引価格)によつて当該土地に対する固定資産評価を求めるもので、当該土地所有者の土地所有目的や土地利用の形態を顧慮することなく算定されるものであるから、近隣土地の売買実例が高騰すれば、(正常と認められない条件がある場合はこれを修正するからその限度での補正はある。)当該土地所有者に売買の必要がなく、またその意思がない場合でも、当該土地に対する固定資産評価、課税標準は自動的に引上げられることとなる。このような事態が生じるのは、現行法上固定資産税が土地、家屋および償却財産の資産価値に着目して課せられる物税(最三小判昭和四七年一月二五日民集二六巻一号一頁参照)として位置づけられていることに起因するものである。

(2)  もつとも、〈証拠〉を総合すれば、固定資産税は昭和二五年シャウプ勧告に基づく地方税制の改正によつて創設されたものであること、それまでは土地に対しては地租、家屋に対しては家屋税が課されており、それらは土地および家屋の賃貸価格を課税標準とした収益税の性質を有していたこと、シャウプ勧告においては、固定資産税の性格を従来のいわゆるレンタル・ベーシス(賃貸価格基準)からキャピタル・バリュー・ベーシス(資本価格基準)に切り替えるとしたものの、その評価方式は賃貸料を資本還元した資本価格としての地価として求めるものであつたから結果的には、いわゆる収益力還元法に基づくもので収益税的財産税であつたこと、昭和三九年一二月、税制調査会は、同年度から施行された固定資産評価基準に基づく固定資産税のありかたについて根本的な検討を加えたこと、その内容は、市街地において顕著な宅地価格の上昇を直ちに税負担に結びつけることは問題があるので、宅地価格の上昇と宅地収益力との関係、宅地(特に自用宅地)の担税力、地代家賃に及ぼす影響等の諸点を勘案し、課税標準の特例を設けることあるいはこれとともに税率引下について今後検討すべきであると提言したこと(なお、土地・家屋について事業用と非事業用とを区別するという見解に対しては、固定資産税は資産自体の持つ収益性に着目して負担を求める税であるという観点からすれば現に事業の用に供しているかどうかによつて負担に差等を設けることは適当でなく、更に資産を事業用と非事業用とに区分することは課税技術上も不可能に近いとの理由から不適当と結論づけた。)、自治省税務局編地方税入門の説明中には、固定資産税負担の本来のあり方はいかにあるべきかという観点からすれば、固定資産税の根底には、財産が本来有する収益力に基づくものであることは否定できないと記述されていること、売買実例価額を基準にすると、原告主張4(二)(4)③掲記の事態が生じかねないこと、路線価方式によると、路線価は宅地の沿接する街路が都市幹線になるほど、また道路幅員が広いほど価値が高くなるが、住宅地にとつては交通の便等増す可能性が強い反面、逆に騒音、振動等が増える可能性があつて居住環境を害するマイナス要因になりかねない場合もあること、画地計算法における奥行価格逓減割合法によると街路に沿つた奥行の浅い零細店舗や住宅地の評価額が、大型の土地利用の評価に較べて高くなること(そのため、地方公共団体によつては固定資産評価基準とは異なつた奥行価格逓減割合法を採用しているものがある。)、同じく画地計算法では行き止まり道路に接した袋地の土地は袋地減価を行なつて低く評価されるが、道路公害や静けさという住宅環境からいえばかえつてこのような土地が望ましい面も存するところ、これよりも住環境の点では劣る街路沿いの宅地は高く評価される結果になること、以上のとおり認められる。

(3) そこでまず、原告は生存権的財産権と非生存権的財産権を区別することなく、売買実例価額を基準とする固定資産評価基準は憲法二五条、一三条、一四条に違反すると主張するので、この点について判断する。

既述のとおり、固定資産評価基準は、固定資産税の課税標準となる土地・家屋の評価の算定方法であるところ、憲法上、いかなる課税標準をとるかはすべて法律によるものとされている(憲法八四条)。したがつて課税標準としていかなる評価方法をとるかは立法政策の問題であつて、立法府の裁量に委ねられているところであるから、いわゆる合理性の基準が妥当し、著しく不合理と認められない限りその違憲の問題は生じないものであるといえよう。これを本件についてみると、既述のとおり、売買実例価額を基礎とする固定資産評価基準によるときは、居住用建物敷地として利用する宅地につき、当該土地所有者に売買の必要や意思がなくても、近隣土地の売買実例の高騰に伴なつて(正常と認められない条件については修正が加えられるが、そうでないかぎり)自動的に固定資産の評価が引き上げられるおそれがあり、その結果当該土地所有者は、固定資産税の負担の増加を余儀なくされることとなり、不合理な面の存することは否定できない。しかし、他面、近隣土地の売買実例の高騰には必ず何らかの理由があるのであつて、それが合理的なものであるかぎり、当該土地の価格も当然客観的潜在的に増大していることも否定できないところであり、当該土地所有者は、いつでもその客観的価格に相応する利益を収受しうる地位にあるのであつて、その意味でその利益に対する可能性を潜在的に取得しているという経済的利益を得ているともいえるのである(これを収益力の一種の増大とみれないこともない)。また、税制調査会が指摘するように、右不合理な面については課税標準の特例を設けることあるいはこれとともに税率を引下げる方策によつてその不合理面を改善することが可能であり、現に地方税法三四九条の三の二によれば、住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例を規定して、住宅用地の課税標準については、法三四九条の課税標準となるべき価格の二分の一の額とし、小規模住宅用地(面積二〇〇メートル以下)の課税標準は法三四九条のそれの四分の一の額とすると規定して一応の是正措置がとられていること、事業用、非事業用を区別することは前記のように税制調査会が指摘するとおり適当でないこと、現に固定資産評価基準によつて算出された課税標準に基づく本件土地の固定資産税額は年間金三、一九〇円であるにとどまり、必ずしも多額のものとはいえないこと(なお、原告の年収(〈証拠〉によれば、原告の昭和五一年一月の所得税、社会保険料を控除したのちの給与は金一八万一、六三一円であるので、これに公務員に準じたボーナス手当年間四・九月分が加算されるとして、年間所得は約三〇六万九、五六三円程度であることが推測される。)に対する負担の割合をみると、約0.1パーセントにすぎない。)等を勘案すれば、本件評価当時固定資産評価基準が著しく不合理であるとまではいえず、上記の憲法の各条項に違反するものともいえない。この点と関連し、原告は生存権的財産権と非生存権的財産権とを区別すべきであるというが、憲法二九条がかかる区別をしてその保護を定めるべきであるとした十分な根拠はなく、更に憲法一四条、一三条も、常に右両者を区別すべきであるとまでいうものと認められるものではなく、原告の主張も立法政策上の理念にすぎないとの感が深い。〈証拠〉によつても、これを左右するに足りない。そして立法政策としては(更に詳細な要件を定めることは必要であろうが)、原告主張のように区別することは可能であり、かつ望ましいかもしれない(前述した不合理面の是正も、結果的には主として原告のいう生存権的財産権にあたる土地所有者の利益にはねかえつているといえよう。)が、これも所詮立法政策に帰するものである。本訴における原告の主張立証では、原告のいう右両者の区別に憲法問題を関連づけるのは困難である。

(4) つぎに、原告は地方税法三四一条五号の「適正な時価」を固定資産評価基準のとおりとすることであれば、同法三四一条五号自体が憲法二五条、一三条に違反する旨主張する。

しかしながら、前記(3)判示のとおり、固定資産評価基準の合憲性が肯認される以上、同法三四一条五号(なお同法三四九条一項の「価格」が適正な時価を意味することは同法三四一条五号により明らかである。)の「適正な時価」を固定資産評価基準のとおりとすることが許されることはこれが課税標準の一内容であることから明らかである。地方税法三四一条五号が憲法一三条、二五条に違反するものではなく原告の右主張は失当である。

(5) 次に、原告は固定資産評価基準が建物について再建築費を基準とし、当該建物について生存権的財産か非生存権的財産かを全く顧慮しないのは憲法二五条、一三条、一四条に違反する旨主張する。

しかし、まず、憲法の諸規定に、生存権的財産か非生存権的財産かによつて保障が区別さるべきことが要請されているとまで認められないことは前記(3)に述べたとおりであるのみならず、建物の評価に関しては、土地について認定したような価格高騰による不合理は認めるに足りる証拠はなく、前記のとおり税制調査会の提言のとおり建物について事業用、非事業用を区分するのは適当とはいえないこと、昭和五一年度における在来分の家屋の評価については経減措置がとられていること(固定資産評価基準第2章第4節二)、同年度の本件建物の固定資産税額は年間金三万八、六四〇円であり、必ずしも多額とはいえないこと〈証拠〉により認められる。なお原告の担税力―原告の年収額は前記のとおり―からみても不相当とはいえないこと(年収に占める割合は約1.26パーセントである。)等を勘案すれば、建物の固定資産評価基準を不合理ということはできず、また、土地に対する固定資産税について前述したときと同様に前記各憲法の条項に反するものではない。

(6)  次に、原告は、固定資産評価基準は立法形式の点からみて、租税法律主義、課税要件法定主義、租税条例主義に反するから違憲である旨主張する(請求原因4(二)(2))のでこの点について判断する。

憲法は、地方自治を保障し、「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる」ものとしている(憲法九四条)。地方公共団体の自治権を保障する憲法の趣旨からいつて、地方公共団体に、その自治権の裏付けとして課税権が与えられるべきことが予想されていることは、当然といつてよいが、右憲法の規定(その他の憲法の諸規定)から当然に地方公共団体に課税権が発生したものと解することは困難である。そして憲法は第八章で地方自治の規定を設けながらも、同時に「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。」(憲法九二条)と規定していることから(その他憲法九三条参照)明らかなように、地方自治の大綱は、国の法律で定めるのが憲法の建前であり、また実質的な見地からいつても、課税について完全に地方公共団体の自主自律に委ねることは、各地方公共団体間で著しい差異をきたし国という統一体からみて経済秩序に混乱をもたらすおそれがあるので、国税と地方税との相互の関連を考え、かつ地方公共団体相互間の適当な調整を図る必要もあり、さらにまた、租税法律主義の建前からいつても、地方税についても、その大枠は、法律で定めておくのが適当であるとの観点にたつて地方税法が制定されているものと解される。そして地方税法二条によれば、「地方団体は、この法律の定めるところによつて、地方税を賦課徴収することができる。」と規定し、地方税の賦課徴収の主体は地方公共団体であることを明らかにするとともにその課税権は既述のとおり地方公共団体に固有のものではなく、右地方税法二条により国から付与されたものであり、地方公共団体は、この国から付与された課税権に基づいて地方税を課税することができるものと解される。

したがつて、地方公共団体の課税については、国法で一定の規制を加え、これに一定の枠を定めることが許されるし、また地方公共団体相互間の均衡を考えればそれが必要でもある。そして右法律の制限内で、各地方公共団体の実情に即した課税を自主的に行なわしめるというのが憲法、地方税法の建前であるということができる。地方税法三条が「地方団体は、その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定をするには、当該地方団体の条例によらなければならない。」と規定するのは、右の趣旨に基づくものである(原告のいう租税条例主義が、憲法上当然に地方公共団体に課税権が付与され、条例でこれを課税しているという趣旨であれば、その見解はとりがたいものである。)。そして、柏市ではこれをうけて柏市税条例(昭和三〇年五月二一日条例第一四号)を設け、五四条以下で固定資産税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について規定をおいているが、固定資産評価の基準に関しては何ら定めをしていない。そこで、自治大臣の告示である前記固定資産評価基準が柏市の固定資産評価について法的に基準たりうるか、が問題となる。

ところで、わが憲法のもとでは、法律の委任に基づく委任命令または法律を執行するための執行命令のみが許されるのである(憲法七三条六号。なお内閣法一一条、国家行政組織法一二条一項参照)が、租税法の分野では、租税法律主義の原則が支配し、課税要件はすべて原則として法律で定められるべきものとされているので、命令によつて定められる事項は、右の原則に牴触しない範囲に限られることになる。もつとも、租税法律主義の原則を徹底する観点からは、できるだけ法律で規定するのが望ましいが、租税法の対象とする経済事象は、きわめて多種多様であり、しかも激しく変遷していくので、これに対応する定めを法律の形式で完全に整えておくことは困難であるし、現実に公平課税等の租税原則を実現するためにも、その具体的な定めを命令に委任し、事情の変遷に伴なつて機動的に改廃していく必要があることは否定できない。それゆえ、課税上基本的な重要事項は法律の形式で定め、具体的・細目的な事項は命令の定めるところに委ねることは憲法上許容されているところと解される(ただし、租税法律主義の原則からいえば、命令への委任は、一定の限界があると考えるべきで、法律自体から、委任の目的・内容・程度等が明らかにされていることを必要とし、課税要件についての概括的・白紙的委任のごときは許されないことはいうまでもない。)。

そこで、本件の固定資産評価基準について検討すると、前記のとおり本件固定資産評価基準は自治大臣の定めた告示であり、地方税法三八八条は右基準を自治大臣が定めるべきことを法定しているものであるから(なお地方税の本質については前述のとおり。)、法律の委任に基づく命令であることは明らかである。ところで、固定資産税の課税要件の内容の一つである課税標準については、地方税法三四九条一項で明記し(同法三四一条五号と相まつて「適正な時価」とされている。)、単にその具体的・細目的・技術的な固定基準を自治大臣の告示に委ねたにすぎないものであるから、立法形式の点からいつても、右固定資産評価基準は市町村の固定資産評価にあたつて法的に基準たりうるものである(それゆえ、地方税法四〇三条一項が右評価基準に遵うべきことを規定するのも理由が存する。)。そして、右固定資産評価基準は、固定資産の評価の基準ならびに評価の実施の方法および手続を、土地、家屋、償却資産に分けて細目的、技術的見地から詳細に規定して全国的統一基準を定めていることはその内容から明らかであり、前記法令の適法な委任の範囲内にとどまることもまた明らかである。

したがつて、条例自身が固定資産評価の基準との関連について何ら規定をおいていないからといつて(もとより条例中に固定資産評価にあたつては自治大臣の固定資産評価基準に遵う旨の条項を設けることは許されないわけではないだろう。)、本件固定資産評価基準に遵うことは当然適法であり(むしろ現行法では右基準に遵わねばならない(法四〇三条一項参照))右基準に遵つた評価が違法視されることはない。

右判示に反する原告の主張は独自の見解というのほかなく、失当である。

(7) 次に、原告は固定資産評価基準および地方税法三四九条一項は、固定資産税の沿革および性質からみて違憲である旨主張するが、固定資産税の本質を収益税に求めるか財産税に求めるかは立法政策の問題であり、現行法が固定資産税を財産税として位置づけていることは既述のとおりである。そして右の結果予想される弊害については前記二2(二)判示のとおりであるが、右判示のとおりこのような弊害の存在をもつては、いまだ著しく不合理なものであり原告主張の憲法の各条文に違反するとまでは断じきれないから、固定資産評価基準および地方税法三四九条一項、同法三四一条五号をもつて原告主張の憲法各条項に違反するということはできず、かかる主張は失当というべきである。

(8)  更に原告は、固定資産評価基準はその内容が不合理であつて租税法律主義に違反する旨主張するが、既に判示したところから明らかなように、右固定資産評価基準には所論のような違法は認められないから、原告の右主張は失当である。

(9)  以上のしだいで、原告の土地建物の昭和五一年度の固定資産評価に当つて、固定資産評価基準を適用することに違法はない。

もつとも、原告の指摘する、固定資産評価基準適用によつて惹起されうる弊害については、更に続くかもしれない将来の著しい地価高騰いかんによつては―適切な是正推置がとられるならばともかく―放置しえない事態になることもないとはいえなく、その場合には単に固定資産税制にとどまらず、持家政策を基調とする今日の住宅政策が、都市政策をも含めた根本的な見直しを迫られることは予想されうるところであり、その意味では原告の投じた一石は何らかの適切な是正措置を求める誘因として大きな警鐘とはいいうるであろう。

(三)  本件固定資産評価の適否について

(1) 原告は、かりに、固定資産評価基準自体が違法でないとしても、柏市長の本件評価額決定は右基準の各規定に違反してなされたものであつて違法である旨主張するので、この点について判断する。

(2) 〈証拠〉を総合すれば、次のとおり認められる。

柏市固定資産税二課は、昭和五一年度の固定資産評価に先立ち、同市内の基準宅地(柏市柏一丁目柏駅駅前の千葉興業銀行支店所在地)の評価として一平方メートル当り金三三万三、〇〇〇円の価格を想定した。そして千葉県東葛支庁税務課長が主催する東葛税務研究会(構成メンバーは柏市を含む千葉県東葛地区七市町村の固定資産税担当課長である。)に右価格を提示し、千葉市の基準宅地の評価等を検討した結果、柏市の基準価格を一平方メートル当り金三二万六、七〇〇円と決定した。

その根拠は、右研究会の席上、固定資産税の評価額は相続税の評価額の約二分の一程度が相当である旨協議したこと、公示価格や住民の税負担という点を考慮したこと(なお、右基準宅地に関する売買実例価額は一平方メートル当り金一三〇万円ないし二二〇万円であり、精通者価格は金一五〇万円であつたから、実勢売買価格は金一五〇万円と判断した。その際基準宅地と売買宅地の位置、利用の便等の相違を考慮した。)にあつた。

そして、柏市内に状況類似地区の標準宅地を六一一選定した。本件土地は、主として市街地的形態を形成するに至らない地域に区分されるところ、その標準宅地は本件土地から約五〇〇メートル離れた地点(三坂医院敷地。以下「本件標準宅地」という。)に設定された。右標準宅地に関する売買実例価額は一平方メートル当り金五万四、〇〇〇円から八万一、六〇〇円であつた(ただし売買実例地について正式な正常売買価額を算出しなかつたことは被告の自認するところである。)し、精通者価額を一平方メートル当り金五万八、二〇〇円と判断し、公示価額は一平方メートル当り金五万二、〇〇〇円であつたので、本件標準宅地の適正な時価を一平方メートル当り金一万〇、四〇〇円と定めた(柏市の宅地の評点は一点につき一円であるので、右は評点でいえば一万〇、四〇〇点である)。右のように本件標準宅地の適正な時価が売買実例価格をかなり下回つた理由は、基準宅地や他の標準宅地の評点との均衡を考慮したこと(とりわけ、基準宅地の固定資産評価額が実勢売買価額の約二割程度であつたから、本件標準宅地についても公示価格の二割として算出された。)によるものである。ついで右本件標準宅地の評点数に比準して同じ状況類似地区内にある本件土地の評価を同数の一万〇、四〇〇点と決定した。本件標準宅地の沿接する道路の幅員は四メートルで野田街道へは徒歩一、二分の距離であるのに対し、本件土地の沿接する道路の幅員は4.5メートル、右街道へは徒歩四分の距離にあるという差異はあるが、右両土地は、いずれも専用住宅が相当連たんしている地域にあり、いずれもその間口は一一メートル、奥行は一八メートルの短形の宅地である(なお公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度等差異があると認めるに足りる証拠はない。)

つぎに本件建物の評価はつぎのとおりである。

まず、本件建物はプレキャストコンクリート造住宅用建物であるから、基準第2章第1節六2の規定により(基準)別表12非木造家屋再建築費評点基準表によりその評点数を求め、経年減点補正率(同別表13)および自治大臣の指示による評点一点当りの価額(柏市は1.1円)を乗じてその価格を求め、さらに基準第2章第4節二(既述の軽減措置)により価格を決定した。その計算根拠は別表(四)のとおりである。

(3) そこで本件土地の評価の適否について判断する。

前記認定のとおり、本件土地の評価の過程は、厳密には固定資産評価基準に遵つたとまでいえるかは問題である。

すなわち、①基準宅地の評価に当つて、東葛税務研究会の協議に基づいてその評価を定めていること、②本件標準宅地に関して売買実例価額は調査さたものの、それらについて個別に正常売買価格を求めていないこと③本件標準宅地の適正な時価を、結果的には公示価格の五分の一と定めたこととされているからである。

しかしながら、固定資産評価基準第1章第3節三によれば、指定市町村か指定市町村以外の市町村かの区別によつて、自治大臣あるいは都道府県知事は、市町村長が評定した基準宅地の適正な時価について検討し、市町村間の評価の均衡上必要があると認めるときは適正な時価について所要の調整を行なうものとされている(前出甲第二号証により認められる。)から、①は右の意味での所要の調整がなされたものと解する余地がある。すなわち、東葛税務研究会による協議は、法四〇八条、一号にいう指導の形式としてなされ、基準にいう調整の発動を事前に予防するための行政指導の一環として行なわれたものと解することができないわけではなく、その場合にも「都道府県知事」に前記の指導ないし調整権限を有すると解される以上、これを背景としてなされる、いわば行政指導の一種として前記の研究会をみることができる。

次に、②③の本件標準宅地の評価に関しては固定資産評価基準第1章第3節二(二)4(3)は、標準宅地の適正な時価の評定にあたつては、基準宅地との評価の均衡および標準宅地相互間の評価の均衡を総合的に考慮するものとされており、右は正常売買価格から評定した基準宅地、各標準宅地の評点数を総合的に考慮する趣旨であるところ、本件標準宅地の適正な時価の評定に関しては、基準宅地との評価の均衡の判断にあたつて基準宅地の実勢売買価格(一平方メートル当り一五〇万円)とその適正な時価(一平方メートル当り三二万六、七〇〇円)との乖離の比率(適正な時価は実勢売買価格の約二割に相当するという乖離比)を考慮して本件標準宅地の適正な時価を評定していること(すべての売買実例価額よりも低額である公示価格の二割とされている。)、本件標準宅地に関する売買実例価額については、その正常売買価格が右売買実例価額よりも低いものであると認めるに足りる証拠はないこと等を勘案すると、本件標準宅地の適正な時価の評価の過程には不適切な点はあるものの、その評価の結果自体はことさらに不合理とまではいえないというべきである。とくに最近―本件問題の時点における土地―とくに東京などの大都会およびその周辺地区における宅地の売買価額の高騰は驚くべきものがあることは当裁判所にとつて公知の事実であり、この高騰した売買価額のうちのいずれまでが「正常と認められない条件」に該当するかはなかなか微妙なものであり、その額はほとんど取引実例の売買価額が―上昇率の鈍ることはあつても下ることはないといつてもよい取引実情に徴すれば、驚くべきほどの高騰した価額がいまや「正常」ともいえるような、いわば全般的に異常な状態にあるともいえるのである。このような現在の状況下においては何をもつて「正常と認められない条件」といえるかは人によつて大いに異なることであろう。しかし固定資産評価基準は、法三四九条にいう「価格」すなわち法三四一条五号にいう「適正な時価」ということに基づいて算出されるべき以上、右のような土地価額の高騰という事実を全く無視することは許されないものではあるが、これをストレートに右「価格」に反映させることも、また「正常と認められない条件」をそのまま肯認することになつて不当であり、だが「正常と認められない条件」が具体的・個別的に明確にすることができない以上、ある程度実際の取引事例に基づく売買価額より相当大巾に減額された形で―したがつてそこにはやや抽象的な裁量的な幅を容認せざるをえない面となつて現われることになる―評価されるのもまた已むをえないものがあり、法もそのことを否定するわけではないのである。そして本件土地の評価は、本件標準宅地に、奥行、形状、利用状況(ただし、本件標準宅地は医院敷地であるのに対し、本件土地は原告の居住用建物敷地であるという差異はあるが、固定資産評価基準ではそのような利用目的によつて評価を異にする立場をとつていないのは既述のとおりである。なお基準別表第4参照)等が類似しているから、その比準割合は一とみるのが相当であるので、柏市長が本件土地の評点数を本件標準宅地と同数の一万〇、四〇〇点(評価額は一平方メートル当り一万〇、四〇〇円)と定め、本件土地の評価額を二〇一万二、四〇〇円としたのは相当というべきである。

そしてその課税標準額については地方税法三四九条の三の二(住宅用地に関する特例)により右評価額の四分の一(金五〇万三、一〇〇円)となるべきところ、昭和五一年度の固定資産税額については同法附則一八条による特例が適用されて、結局本件土地の昭和五〇年度の課税標準額に1.3を乗じた額(17万5,601円×1.3によつて算出される金二一万八、二八一円。なお、昭和五〇年度の課税標準額が右の金額であることは〈証拠〉により認められる。)となるから右と同額の柏市長の決定が適法であることはいうまでもない。

また本件建物の評価額ならびに課税標準額は既述のとおり固定資産評価基準に遵つたものであると認められるので適法というべきである。

(4) 次に、原告は、柏市長が評価の都度固定資産評価基準にしたがつた適法な評価決定をせず、違法な「どんぶり勘定」による評価決定を繰りかえしてきた旨主張するのでこの点について判断する。

〈証拠〉によれば、本件土地の昭和四七年度から同五一年度における固定資産税の評価額および固定資産税と都市計画税を含めた税額は別表(二)のとおりであること、この間本件土地の利用状況―原告の居住建物の敷地―に全く変動はなく、本件土地から、自分で使用し生活するという快適な居住環境に住んでいるという日常生活上の便利および安心感などを除いては他に特別の利潤を得ていないこと(ただし地下鉄が延長され、北柏駅が設置されて利用上の便は増した。)、本件土地の評価額は上昇し本件土地建物の固定資産税に対する原告の税負担が増大し、これが原告の所得の上昇割合を上廻つていること、は認められるが、このようなことがあるからといつて、本件土地建物の固定資産の評価を違法ならしめるものではない。この点の原告の右主張は認めがたい。

(5) 次に、原告は、本件土地の周辺の土地と比較して本件土地の評価額は不公平かつ不適正に過大となつているから違法である旨主張するので、この点について判断する。

〈証拠〉を総合すれば、次のとおり認められる。

本件土地は国鉄常磐線北柏駅から東北東方向徒歩約一五分の位置にあること、原告は本件土地を昭和四一年に取得し、同四八年に右土地上に本件建物を建築して、自らの居住用に使用しており、今後もこれ以外の用に供する予定はなく、また売却する予定もないこと、柏市内の地目山林の土地の昭和五一年度の固定資産税の評価額は別表(三)記載のとおりであること、右各土地はいずれも住宅地域に隣接ないし近接しており、駅からの距離も別表(三)記載のとおりであつて、薪炭材の伐採等林産物の産出には利用されておらず、将来宅地化されることは十分予想しうるものであること、現に右1の山林(通称吉田山。以下「吉田山」ということがある。)は昭和五四年ころ以降には樹木が伐採されて宅地化され三井生命相互保険株式会社によつて電子計算機センターの建物が建築されていること(なお、右土地の昭和五四年度の評価額は一平方メートル当り金一万六、九〇〇円となつている。)、住宅地域に隣接ないし近接している山林の売買において、同様の地域の宅地と較べて著しく低額で取引されるということは実際上おこりえないこと、柏市内の宅地でも市川毛織株式会社、伊藤ハム栄養食品株式会社、アサヒビール株式会社が国道六号線、北柏駅周辺に立地して企業活動を営んでおり、その土地の所在地、駅からの距離、昭和五一年度の固定資産税評価額は別表(五)1ないし3のとおりであること、右1、2の土地の評価額は一平方メートル当り六〇〇円、3は三、二〇〇円本件土地よりも高いにすぎないこと、バスの便も良い光ケ丘団地周辺に立地する小金毛織株式会社の敷地の評価額は別紙(五)4のとおりで本件土地のそれより二〇〇円高いだけであること、同じく光ケ丘団地周辺の土地(宅地、畑、山林)の評価額は同表5のとおりであること、南柏駅から徒歩一五分の距離にある日通住宅付近の土地(宅地、畑、山林)の評価額は同表6のとおりであることが認められる。

そこで、まず山林の評価額についてみると、それらは本件土地の評価額に較べて著しく低額となつており(二一六分の一ないし二一八分の一にすぎない)、金額のみをみれば均衡を失していることは明らかである。しかし、だからといつて本件土地の評価が直ちに合理性を欠いて違法というのは早計である。というのは、右の山林の評価額が算出されたのは、固定資産評価基準が地目毎に基準地を設定し評点を付して行なう方針をとつている結果生じたものであつて、その地目が異なれば自ずと評価額が異なることになるからである。もつとも右基準によれば、その地目は現況によつて定めることとしており、さらに現況山林であつても、宅地のうちに介在する山林および市街地近郊の山林は、当該山林の近傍の宅地等との評価の均衡上山林としての評価方法をとることが適当でないと認められるものについては、当該山林の附近の宅地等の価額に比準してその価額を求める方法によることとされている(前出甲第二号証基準第1章第7節一参照)から、別表(三)、(五)の山林が介在山林あるいは市街地近郊の山林であるならば、その評価額を基準にしたがつて是正すべきであつて、それがなされていないからといつて周辺宅地のそれ自体適法な評価(本件土地の評価額が適法であることは既述のとおりである。)が直ちに違法とはならないというべきである。

ただ、ここで一言付言するに、原告のいわんとするところは、おそらく地目山林という名目はあつても、実際上山林としてはもちろん他の社会的需用にも何ら利用されておらず、実質上宅地として潜在的価値を有する大都会周辺の「山林」といういわば宅地たるべき土地について、単に「山林」という名目があるゆえに著しく低廉な固定資産税評価額にしておくのは不当であり違法であるということであろう。税の負担は、あえて固定資産税にかぎらず、何人に対しても公平でかつ平等な基準にしたがつて課税されなければならなく(これによつて税の負担の適正均衡が確保されるのである)、これが租税制度の第一歩である。原告のいうが如き実情にあるとすれば、柏市として速やかに「山林」という名目にかりた土地の実質を検討して税負担の公平平等の実現を図るべきである。ただでさえ税の負担の増大が一般世人に認識されているときである。このようなときには税の徴収に公平平等を欠くことがないかを深く考えるべきことが要求される。古人はいう。「乏しきを憂えず、等しからざるを憂う」と。税の徴収の限界についても一層強く同じことが要求される。原告のいうような事情があるとすれば、税務当局の適切な方法によつて是正されることが望ましく、さもなければ右の不公平ないし妥当を欠く税負担が容認される形で推移するならば、いずれ別個の憲法問題として派生する可能性がないとはいえない。

つぎに、本件土地と前記の周辺宅地との評価額の均衡について判断する。別表(五)6の宅地(以下「6土地」のようにいう。)は本件土地と駅(6土地が本件土地よりも二駅上野寄りであるのを除けば)からの距離は同じであり、原告調査による売買実例価額との比率も6土地の評価額が約15.48パーセント、本件土地のそれは約14.92パーセントであつて大差なく、むしろ本件土地の評価額の方が若干低めに設定されているようである。なお、右認定のほか6土地の宅地の利用上の便が本件土地に比して特にすぐれていることを認めるに足りる証拠はない。

つぎに、4土地、5土地の宅地は駅からの接近状況は本件土地よりも悪いが、住環境の点ではすぐれている面もある(原告本人の供述)。ただ原告調査による売買実例価額との比率は、4土地の評価額が約13.99パーセント、5土地(宅地)のそれは約14.52パーセント、それに対して本件土地のそれは約14.92パーセントとなつて若干高いが、著しい差があるわけではないから不合理があるとまでは認められない。

つぎに、1ないし3土地の宅地は駅、街路からの接近がすぐれているから、特に1、2土地については本件土地よりも評価額が四〇〇円高いにすぎないのは不合理というべきであるが、これは本件土地の評価額が高すぎるというのではなく、1ないし3の土地のそれが安すぎるものというべきである。なぜならば、本件土地は既述の4ないし6土地との関係ではほぼ均衡を保つていること、昭和五四年度の評価額においては本件土地が一平方メートル当り一万二、一〇〇円(昭和五一年度比約16.3パーセント増加)であるのに、2、3土地のそれは一万三、六〇〇円(同約23.6パーセント増加)、3土地のそれは一万八、二〇〇円(約33.8パーセント増加)とされていることが認められるからである。

なお、原告は本件土地が居住用目的であり、1ないし4土地は企業活動の用地であるから同列に扱うべきでない旨主張するが、現行の固定資産評価基準ではかかる区別をしていないこと(その合憲性、適法性については既述のとおり。)、既述のとおり評価額は右のとおりであつても課税標準額については住宅用地に対しては特例が設けられている(本件土地の課税標準額は評価額の四分の一となつている。)から、原告の主張は失当というべきである。

(6) 次に、原告は本件評価決定において実地調査等の手続が履践されなかつた違法がある旨主張するので、この点について判断する。

① この点について被告はかかる手続違反の有無は委員会の審査の対象とならないから、本件訴訟の審査から除外さるべきであると主張するようであるが、固定資産税台帳の登録事項は適法な手続を経てはじめて正確・妥当な登録がなされるのであるから、実地調査など手続が適法になされたかどうかがその登録事項の当否に影響を与えることは明らかであるから、本訴においてこれを審理判断しうることはもちろんである。被告の右主張はとりがたい。

② 〈証拠〉によれば、柏市全体で昭五一年度当時、土地の筆数は約一七万筆であつたこと、当時の柏市の固定資産評価員は一名、固定資産評価補助員は四一名であつたこと、市内の土地建物の状況については、主に地目の変化、建物の新・増築の観点から年一回調査を行なつたこと、しかし地方税法四〇三条二項の明記するところの納税者とともにする実地調査は、一部の地区では行なわれたものの、本件土地建物を含むその周辺地区では行なわれなかつたことが認められる。

ところで、地方税法四〇八条は「市町村長は、固定資産評価員又は固定資産評価補助員に当該市町村所在の固定資産の状況を毎年少くとも一回実地に調査させなければならない。」と規定して年一回の実地調査すべき旨を定めている。また同法四〇三条二項は「固定資産の評価に関する事務に従事する市町村の職員は、……納税者とともにする実地調査、納税者に対する質問……等のあらゆる方法によつて、公正な評価をするように務めなければならない。」と規定している。

ところで、前記認定にかかる柏市長の固定資産評価の手続では、法四〇八条に定める実地調査は行なわれているとは認めがたい(なお、法四〇八条の規定は単なる訓示規定と解することはできない。市長が本来遵守しなければならない強行規定である)。実地調査というからには現地の土地建物に臨んで実状を把握し、固定資産の評価に影響を与えるような変化の有無を確認し、その位置を記載すべきが本来だからである。

もつとも法四〇八条の調査に際しては、必ずしも納税者とともに実地調査をすることは要しないから、法四〇三条二項の各手続をとらなかつたからといつて法四〇八条の実地調査がなかつたというわけではない。ただ、法四〇八条の実地調査に際しては、事情によつては法四〇三条二項(三五三条参照)の規定に基づくことが必要なこともあろう。

ただ、四〇八条の趣旨は、要するに固定資産の実情を的確に把握して適正な価格の評価を可能にするための一手段として規定されたものと解すべきであるから、前記のとおり担当職員が一応は現地の調査を行なつていること、柏市の担当職員の人員、既に判示したように本件評価自体実質的に違法とはいえないこと等を勘案すれば、法四〇八条に定める正式な実地調査を欠いたからといつて、本件評価自体が違法として取り消さるべき事由があるというわけではないから、原告の主張は理由がない。

(7) つぎに固定資産課税台帳の縦覧制限による違法の点について判断する。

〈証拠〉によれば、原告は固定資産課税台帳の縦覧期間内に、自らの宅地建物の台帳の縦覧とともに、その計算根拠および比較対照するため他の標準宅地等の縦覧を柏市当局に請求したこと、これに対して市当局は本件土地建物の縦覧は許したものの、他の台帳についてはその縦覧を拒絶したこと、この間原告は千葉行政監察局や千葉県地方課に柏市長の扱いの是正方を働きかけた結果、縦覧期間の経過した昭和五一年四月二〇日になつて漸く標準地の価格を教えてもよい旨連絡してきたことが認められる。

ところで、地方税法四一五条は、毎年一定期間に固定資産課税台帳を納税者の縦覧に供しなければならないことを規定するが、右の趣旨は、納税者に自らの固定資産の評価を知る機会を与えるとともに、その評価額が公平妥当な額であるかを検討させることにあると解される(それゆえ、右評価額に不服がある場合には審査申出の制度が設けられているのである。)。

したがつて、納税者が縦覧できる範囲は、必ずしも自らの固定資産台帳に限られず、他の固定資産の評価額についても納税者がその資産について、他の評価額とのバランスの不均衡の是正その他の事実を主張立証して関係者としての地位が肯認されるかぎり、縦覧を認められるべきものである。前述のように法が特に縦覧期間を設け、不服申立制度とも密着させて規定しているところからすれば、自らの固定資産の評価額が公平妥当なものかどうか検討できる機会を特に設けた趣旨であるから、その趣旨・目的を達成できる範囲で他の固定資産の評価額も縦覧できなければならないからである。したがつて、自らの固定資産の評価の基礎となつた基準宅地・標準宅地がどこで、いくらと評価されているのか、また自らの宅地等と状況類似の地区の路線価はいくらなのか等は当然知ることができると解される。けだしこれを知らなければ、自らの固定資産の評価の妥当性を検討することさえできないし、これができないということであれば実質的に納税者の不服申立権を奪う結果になるのであるから、右の要請は最小限必要な条件と言わねばならないであろう。法が「閲覧」とせずに、あえて「縦覧」というのは右の趣旨を明らかにしたものということができよう。

縦覧の趣旨が右のとおりである以上、柏市長の前記拒絶は法の趣旨に反した違法行為といわざるをえない。

しかしながら、縦覧の点に違法があるからといつてそれが直ちに評価自体を違法ならしめるかどうかは別個の問題である。固定資産評価審査委員会への審査申出は終局的には当該固定資産評価額および課税標準額の当否にかかつているものであるから、当該評価額等に違法がなければ、審査申出は理由がないことに帰し、縦覧の点に違法があつたからといつて、それが直ちに評価額等の内容に結びつくものではないからである。したがつて、本件請求においては、既述のとおり、本件評価が適法と認められる以上、縦覧の点について違法があつても、原告の請求は理由がないといわざるをえない。

三結論

以上のしだいで本件決定は適法であるから原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判断する。

(奈良次郎 合田かつ子 吉田健司)

物件目録〈省略〉

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